この作品について
ふと目を奪われるのは、美しい人魚を描いた幻想作品でありながら、その舞台が汚れた海の底であることです。そう感じる理由は、人物の造形が繊細で静かなのに対し、周囲にはピンクや青、黄色のビニール袋や透明なプラスチック容器が無数に散らばり、見れば見るほど現実の重さがにじむからです。横顔の人魚は目を閉じるように穏やかに座り、光の筋が落ちる青緑の水中で、半透明に光る大きな尾びれを静かにたたんでいます。さらに、身体や衣装のように見える部分にも海の欠片とごみが絡みつき、ただのファンタジーでは終わらない空気を生みました。美しさに引き寄せたあとで現実を突きつける、その順番まで含めて大切にした作品です。
コンセプト
中心に置いたのは、環境問題を“正しさ”ではなく“感情”で伝えることでした。なぜなら、海洋汚染という言葉だけでは届きにくい危機感も、悲しみをまとった美として見せることで心に残りやすくなるからです。たとえば、海底を覆うカラフルなごみは一見すると装飾のようにも見えますが、人魚の白くなめらかな肌や金色の髪、水中から差し込む神聖な光と並ぶことで、その異物感がむしろ強く際立ちます。とくに、花のように見える装飾とプラスチックの破片が同じ画面の中に共存している構図には、人間がつくった便利さが自然の美しさを侵食している皮肉を込めました。美しさの中に悲しさを沈めることで、環境問題を自分ごととして感じてもらいたいと考えています。
苦労ポイント
制作で最も苦労したのは、幻想性を保ちながら、ごみの存在を埋もれさせないことでした。その理由は、Midjourneyで出力すると全体がダークファンタジー寄りになりやすく、水中の光が沈み、海底のごみが暗がりに溶けてしまったからです。実際、初期の段階では人魚の雰囲気は出ていても、プラスチック袋や容器の形が見えにくく、ただ暗く雰囲気のある絵に見える失敗が続きました。そこでレタッチでは影を持ち上げて海底の情報量を見せ、彩度を上げてピンクやターコイズ、オレンジのごみを意図的に強調し、環境問題としてのインパクトを戻しました。きれいに見せるだけで終わらせず、何が沈んでいるのかをはっきり伝える調整こそ、この作品の重要な工程でした。
さいごに
心に残る作品を求める気持ちの奥には、まだ自覚していない“価値観まで選び取りたい”という欲求があります。なぜなら、人はただ美しいものを見るだけでなく、自分が大切にしたい問題意識や感情まで重ねられる表現に強く引かれるからです。静かな横顔、光を受ける金色の髪、海底いっぱいに広がる鮮やかなごみ、そして透けるような尾びれが同居するこの一枚には、幻想の美と現実の痛みが同時に封じ込められています。眺めるたびに、きれいだと思った感情のすぐ隣に、海の未来を思う気持ちが立ち上がるはずです。もしこの作品を気に入っていただけましたら、ご購入いただけるとうれしいです。
